| date | genre | title |
| 2026 | app | imagon.app |





説明
ポリゴンメッシュでビジュアルアートを作成できるウェブアプリ「IMAGON」を開発しました。写真を読み込んで指でなぞると、なぞった場所の色がポリゴンの破片となって裂け、伸び、渦を巻く。スマホでもPCでも、ブラウザさえあればその場で動きます。2026年5月26日にβ版を公開。
元々は、早川書房から出版された樋口恭介さんの第二長編『Executing Init and Fini』のグラフィック(上記画像一枚目)を制作する際に設計したPhotoshop用の特殊なブラシが原型になっています。ふつうの線や面を重ねていくのではなく、「すべての画像を頂点を持ったポリゴンのように扱い、変形させてデフォルメできるようなペイントソフトがつくれないか」と思ったのがきっかけです。
発売から時間が空き、β版を公開したのは2026年5月26日の夜でした。公開の告知に添えた最初の一枚は、その日の昼食のマグロ丼を裂いたもの(二枚目の画像)。風景でも人物でもなく目の前の丼が最初の作品になったのは、いま思えばこのアプリの性格をよく表していました。何気ない食べ物の写真ですら、「意味もなく」カッコよくすることができる。それがこのソフトウェアの思想というか、根底にあります。
当時のぼくは連載版『R.A.W. 戦走機械』のネームの修羅場のただなかにいて(今もそう)、同じ週にはanon press / recordsのイベント「CY」のためのVJシステムもつくり始めていました。IMAGONはそのすきまで生まれています。公開の2日後、X(Twitter)に「原稿の修羅場に半分逃避しながらβ版を公開した」と書きましたが、実際、締切から逃げているときの手がいちばんよく動く。
反響は思いのほか楽しそうなもので、「他にもこういうブラシが欲しい!」といったご意見はこっそりDMで受けつけることにしました(いまも受けつけています)。数日後にはIMAGONで描いた画をVJに流し込む実験をし、以後も丼、ラーメン、街で出会ったもの——日常の写真を素材に描き続けています。7月にはユーザーの方の作品がタイムラインに流れてきて、思わず叫びました。自分のツールから、自分には描けない画が出てくるのを見るのは、オープンソース思想のぼくとしてはとてもうれしい瞬間です。
思想
β公開の二日前、X(Twitter)にこう書きました。自分はデザインにもAIを使っているし、直接ビジュアルを生成することもある。けれど最近のAIは、ぼくにとって「ツールを設計するための手段」と化している。自分のデザイン環境のメタ・デザインを行い、そのオリジナルのツールがある環境でのびのびと制作する。ポン出しにはあまり意味を感じない——IMAGONは、この考えのいちばん素直な実践です。AIの仕事はこのツールをつくるところまでで、描画そのものには一切かかわっていません。
ブラシは線を引くのではなく、なぞった場所の色をドロネー分割のポリゴンメッシュとして掴み、ドラッグの方向へ裂き、曲げ、引き延ばします。GLASS、RISE、WARP、SMUDGE、CURVE、RANDOM、SPIKE、SWOOSH——8種のブラシに、点の数や歪み、爆発量といったパラメータ、シンメトリー描画。絵筆というより、現実を素材にする彫刻刀に近い感触です。
素材が「自分で撮った写真」であることも大事にしています。画面に入ってくるのは、ごはんや街角といった卑近な現実そのもの。それをその場で、指の運動だけで、見たことのないかたちに変えてしまう。うまく描く必要はまったくなくて、壊すこと自体が気持ちいいように調整を重ねています。
描いた画には「IMAGON(imagon.app)によって描かれた」という一文を添えてシェアできるようにしました。作品に残るのは署名ではなくツールの名前で、素材は撮った人それぞれの現実です。同じアプリから、ぼくには描けない画がいくらでも出てくる。メタ・デザインの続きは、使ってくれる人の指先に委ねられています。